ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ 紀友則

ひさかたの ひかりのどけき はるのひに しずごころなく はなのちるらん (きのとものり)

意味

のどかに日の光が差す春の日なのに、どうして桜の花はせわしなく散り急ぐのだろうか。

語句

■久方の 天・空・光などにかかる枕詞。 ■しづ心 静かな、落ち着いた心。 ■花の散るらむ 「花の」の「の」は主格をあらわす格助詞。「花が」。花を人間のように見た擬人法。「らむ」は推量の助動詞。何を推量しているかについて二つの説がある。①疑問の副詞「など」を補って「などしづ心なく花の散るらむ」…「どうして落ち着いた心もなく花は散っていくのだろう」という説。②疑問の係助詞「や」を補って「しづ心なくや花の散るらむ」つまり「花が散っていくのは落ち着いた心が無いからであろうか」とする説。当サイトでは前者の解釈に依りました。

出典

古今集(巻2・春下・84)。詞書に「さくらの花のちるをよめる 紀友則」。他『古今六帖』に第二句を「光さやけき」とした歌がある。

決まり字

ひさ

解説

こんなのどかな春の日なんだから、桜ももっとノンビリすればいいのに。桜よ、もっとゆっくり咲かないか。もっと長く、私たちを楽しませてくれ。

でもそんな呼びかけには関係なく、桜はいそいそと散っていく。惜しいなあ勿体無いなあという歌です。

作者 紀友則

紀友則(851/857-905)平安時代初期の歌人。35番紀貫之の従兄弟。紀有友の子。三十六歌仙の一人。

40歳過ぎて初めて任官。897年土佐掾(とさのじょう)、翌年少内記、904年大内記。紀貫之凡河内躬恒壬生忠岑らと共に『古今和歌集』編者の一人に選ばれ古今集中第三位の46首を入集。しかし古今集完成を見ずに亡くなります。

古今集17巻には紀友則の死を悼む紀貫之・壬生忠岑の哀傷歌が収録されています。

紀友則が身まかりにける時よめる

明日知らぬ わが身と思へど 暮れぬ間の
今日は人こそ かなしかりけれ

明日も知れないわが身とは思うが、まだ死んでいない生きているのに、大切な人を失った今日という日こそ、悲しいなあ

そのほか、紀友則の代表作

君ならで誰にか見せむ梅の花
色をも香をもしる人ぞ知る

君以外に誰に見せようこの梅の花を。
その色も香も、ほんとうに理解できるのは君だけなのだから。

春霞たなびく山の桜花
みれどもあかぬ君にもあるかな

春霞のたなびく山の桜花のように、いつまで見ていても飽きない君であるなあ。