恨みわび干さぬ袖だにあるものを 恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ 相模

うらみわび ほさぬそでだに あるものを こいにくちなん なこそおしけれ (さがみ)

意味

貴方のことを恨み悲しんで、私の袖は涙が乾く間もないのです。それだけでもつらいのに、その上世間から実らぬ恋の噂まで立てられて、私の名前に傷がついてしまう。もうさんざんです。

語句

■恨みわび 相手のつれない態度を恨み、悲しみにうちひしがれている様子。 ■ほさぬ袖だにあるものを 涙の乾かないで濡れに濡れているこの袖さえ惜しいのに。「だに」は程度の軽いものを挙げて程度の大きいものを類推させる。ここで「程度の軽いもの」は「涙に濡れる袖」。「程度の重いもの」は「恋の浮名が流れてしまうこと」。「ものを」は逆説の接続助詞。 ■恋に朽ちなむ 恋に浮名を流して朽ちてしまうだろう(私の名が)。「な」は完了の助動詞「ぬ」の未然形。「む」は推量の助動詞「む」の連体形で次の「名」にかかる。 ■名こそ惜しけれ 「名」は評判。「こそ」は強意の係助詞。「惜しけれ」は形容詞の已然形で「こそ」の結び。

出典

後拾遺集(巻14・恋4・815)。詞書に「永承六年内裏歌合に 相模」。「永承」は後冷泉院の年号。

決まり字

うら

解説

詞書にあるように歌合における題詠です。つまり実体験ではなく完全に創作なのですが、恋の浮き名が流れることを恐れた女性の心理をよくとらえています。

「ほさぬ袖だにあるものを」の解釈に二つの説があります。一つは通説で、「涙に袖が濡れるのさえ惜しいのに、その上さらに恋の浮名まで流れてしまうなんて」という解釈です。

「涙に袖が濡れる」という程度の軽いことをまず言って、それさえ我慢できないのに、その上!さらに!「恋の浮名が流れる」と程度の重いことを言っているわけです。これが一般的によく取られる解釈です。

一方、「涙に濡れた私の袖さえ、朽ちてしまわないでここに存在しているのに」という解釈もあります。つまり、涙にこんなにも濡れたら袖が落ちてしまうのが当たり前なのに、その袖さえ朽ちずに存在していると。ちょっとこっちは理屈ぽい解釈だと思います。

作者 相模

生没年未詳。11世紀半ばの人。清和源氏源頼光の養女。一説に本名乙侍(おとじじゅう)。相模守大江公資(おおえのきんすけ)の妻となり相模の女房名で呼ばれます。

夫の任国相模に伴われて下るも彼女には不本意なことだったようで結婚生活は破綻します。

その間、四条大納言藤原公任の長男藤原定頼と恋愛関係になりました。例の小式部内侍をからかってやりこめられた男です。

相模はまず一条天皇第一皇女脩子内親王(しゅうしないしんのう)に、ついで後朱雀天皇皇女佑子内親王に仕えます。その間、多くの歌合せに参加し後朱雀・後冷泉朝の歌壇の中心人物として活躍しました。

能因法師和泉式部源経信らと交流がありました。顔が広い人物ですね。家集に『相模集』。