よくわかる和歌の技法「掛詞」「枕詞」「序詞」

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こんにちは。左大臣光永です。

新幹線の指定席は諸刃の剣ですね。必ずしも快適になるとは限らない。太陽がまぶしいので向こう側に移りたいと思っても移れないじゃないですか。横にワアワア言う人がいたり延々としゃべり続けている中国人がいたりしても、指定席だと逃げられない。そもそもガラガラの時に指定席取っちゃったりすると、あれ?自由席でよかったじゃんとなるので、判断が難しいですね。

さて先日再発売しました。「日本の歴史~平安京と藤原氏の繁栄」。ご好評をいただいています。桓武天皇による平安京遷都から、藤原氏の全盛期を経て、白河上皇により院政がはじまる直前まで約300年間の歴史の流れを語った音声つきCD-ROMです。

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さて、

本日から三回にわたって「よくわかる 和歌の技法」をお届けします。枕詞や序詞、見立てや縁語、本歌取りといった和歌の技法について、有名な歌を例にしてお話ししていきます。

↓↓↓音声が再生されます↓↓

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和歌の技法について知識を整理しておくと、日本の古典の中には必ずといっていいほど和歌が出てきますので、古典一般を読む上で必ず役に立つはずです。

掛詞

掛詞は、同じ音で複数の意味を持たせる技法です。ひらがなが使われるようになった『古今和歌集』の時代に確立しました。和歌はたった31文字ですので、その中に複雑な内容を詠んだり、深い内容を詰め込むのに、掛詞は有効です。

おきもせず寝もせで夜を明かしては
春のものとてながめくらしつ

『伊勢物語』第二段

『伊勢物語』の第二段に歌われている歌です。男が、一度通った女のことを恋しく思って、春雨がそぼ降る中、もの思いに沈んでいるという歌です。

起きているのでもなく、寝るのでもなく夜を明かしました。朝になると春らしい長雨が降っています。私はその長雨を見ながら、ぼんやり物思いにふけって一日を過ごしてしまいましたよ。

「ながめ」が、「ながめる」ぼんやり物思いに沈むという意味の「ながめる」と、「長雨」長く降り続ける雨という意味の「長雨」と、両方の意味を持つ、掛詞になっています。

こういうふうに一つの言葉で複数の意味を持たせることによって、少ない文字数で厚みのある内容をこめることができる。これが掛詞。掛詞です。

これやこの行くも帰るも別れては
知るも知らぬもあふ坂の関

後撰集(巻15・雑1・1089)「逢坂の関に庵室(あんじつ)を造りて住み侍りけるに、行きかふ人を見て 蝉丸」

これがまあ、京を出ていく人も、京に帰ってくる人もここでまた逢う。知っている人も知らない人もここで逢う。その名も、逢坂の関なのだ。「行くも帰るも別れては」が「あふさかの関」の中の「あふ」にかかり、「知るも知らぬも」も「あふ」にかかります。この「あふ」が、掛詞です。「あふ」という動詞と、「逢坂の関」という地名が掛詞になっています。

枕詞は特定の言葉を導く言葉です。主に五文字を基本とします。言葉と言葉の対応関係がほぼ一対一に決まっています。あおによし~奈良とか、ひたかたの光、とか、あしびきの、山とか、たらちねの母とか、ぬばたまの闇。

AといったらBというふうに、ほぼ一対一の関係でつながりあっている。だから「足びきの」と言われたら聞いているほうも「あ、山の歌を詠むんだな」とわかるので、心構えができるわけです。

あしびきの山鳥の尾のしだり尾の
ながながし夜をひとりかも寝む

拾遺集・巻13・恋3(778)「題知らず 人麿」

山鳥の長く垂れ下がった尾のようにながーーい夜を独り寝するのかなぁ。

「あしびきの」が次の「山」を導く枕詞です。

よく枕詞は意味が無いから、訳さなくていいと言われます。たしかに現代語訳する時には訳さないのが普通です。しかし言葉ですから、もともとは意味があったわけです。

足びきの、だったら、おそらく重い足をひきずりながら山道を登っていくイメージがあったんでしょう。しかし元々の意味やイメージは失われて、特定の「山」という言葉を導く、枕詞となっていったわけです。

青丹よし寧楽(なら)の都は咲く花の
薫ふがごとく今盛りなり

『万葉集』巻三・三二八 小野老

青丹美しい奈良の都は、咲く花が美しく色づいているように、今が盛りです。これは大宰府の次官・大宰少弐(だざいのしょうに)として派遣されていた小野老(おののおゆ)が、奈良の都のことを懐かしんで詠んだ歌です。あるいは一時的に大宰府赴任中に奈良に戻った時に詠んだとも言われます。いずれにしても奈良の都の、美しさすばらしさを詠んでいる。

この「青丹よし」が「奈良」を導く枕詞です。

「青丹(あおに)」の「丹(に)」は赤。つまり「青丹」は「青と赤」。「青と赤がよい」とは、どういうことか?青とは、天平の甍。奈良の寺々の甍…瓦の色。そして「赤」は、寺々の柱の色を指すと言われます。

また別の説では、古代奈良で取れた「青丹」という、顔料や塗料として用いられた土のことを指しているとも言われます。

正確な語源はわかりませんが…青丹よし→奈良。青丹よし→奈良と導く、枕詞として定着しました。

ひさかたの光のどけき春の日に
しづ心なく花の散るらむ

古今集(巻2・春下・84) 紀友則

のどかに日の光が差す春の日なのに、どうして桜の花はせわしなく散り急ぐのだろうか。春先には思い出したい紀友則の歌です。

「ひさかたの」が「光」や「空」を導く枕詞。これも本来的な意味はあったんでしょう。しかし本来的な意味は失われ、ひさかたの→光、ひさかたり→光と導く枕詞として定着していったわけです。

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序詞

序詞も枕詞と同じく、ある言葉を導くための言葉です。ある言葉を導く言葉遊びであったり、洒落であったりします。枕詞と違うのは一首一首オリジナルな序詞が作られる。そして多くは七文字以上・二句以上と長いということです。そして普通は現代語に訳します。

「~のような」とか、「~ではないが」と訳することが多いです。多くは言葉遊びであったり、抽象的な歌の内容に具体的なイメージを添える役割をします。

多麻川に曝す手作さらさらに
何そこの児のここだ愛しき

『万葉集』巻十四・三三七三 東歌 作者未詳

多摩川にさらす手作りの布のように、さらにさらに、どうしてこの娘はこんなに愛しいのだろう。

「多麻川」は東京の多摩川。「手作り」は手作りの布。

多麻川にさらす手作り」の「曝す」から、次に「さらさらに」を導きます。つまり、
「多麻川に曝す手作」までが、次の「さらさらに」を導く序詞です。

浅茅生の小野の篠原忍ぶれど
あまりてなどか人の恋しき

後撰集(巻9・恋1・578)
「人につかはしける 源ひとしの朝臣」

「浅茅生の小野の篠原」までが次の「忍ぶれど」を導く序詞です。「浅茅生の小野の篠原」の「浅茅生」とは、背の低いチガヤがたくさん生えている場所。「小野の篠原」は、篠竹がたくさん生えている野原のこと。つまり、背の低いチガヤがいっぱい生えている。そこに篠竹が生えているという情景です。

これら「浅茅生の小野の篠原」の「しの」によって、次の「忍ぶれど」が自然に導かれます。序詞とはこのように一種の言葉遊びであり、実景ではないんですね。だから歌の内容を取るには思い切って省いてもいいと思います。

前半を全部省いてしまって、「忍ぶれどあまりてなどか人の恋しき」…どんなにガマンして忍んでみても思い余って、あなたを恋しい気持ちが出てしまう。どんなに忍んでもわーーっと気持が出てしまうんだ。抑えきれないというのが、この歌の内容です。

しかし、それだけだと抽象的で面白くないですので、「浅茅生の小野の篠原」という具体的なイメージがそこに序詞として添えられることによって、歌に面白さが生じています。

このように、序詞には抽象的な内容の歌に具体的なイメージを添える効果もあります。

駿河なるうつの山辺のうつつにも
夢にも人にあはぬなりけり

『伊勢物語』第九段

『伊勢物語』の東下りの段にある歌です。駿河の宇津谷峠。東海道の難所を通りかかった時に、たまたま、顔見知りの人と出会った。その人はこれから京都に帰る。我々はまだ東国のほうに旅していく…

「そうですか。じゃあ京都にいらっしゃる誰それさんに文を言づけてよろしいですか」
「ああ、構いませんよ」

その文に、添えた歌です。

駿河なるうつの山辺のうつつにも夢にも人にあはぬなりけり…駿河にある宇津の山辺の、その「うつ」という言葉のように、現にも夢にもあなたにお会いすることができない。ああ、あなたにお会いしたいです。

これも歌の意味内容は後半だけで、「うつつにも夢にも人にあわぬなりけり」…現にも夢にもあなたにお会いすることができない、お会いしたいです、ということなんですが、前半に「駿河なる宇津の山辺の」と序詞を置くことによって、「宇津」という音から「うつつにも」を自然に導いているわけです。こういうのが序詞。序詞です。

明日は、「見立て」「縁語」についてお話しします。お楽しみに。

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