白露に風の吹きしく秋の野は つらぬきとめぬ玉ぞ散りける 文屋朝康

しらつゆに かぜのふきしく あきののは つらぬきとめぬ たまぞちりける (ふんやのあさやす)

意味

白露に風が吹き付ける秋の野は、さながら真珠の玉の糸でつないでないのがバラバラと乱れ散ったようだよ。

嵯峨野の歌碑
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語句

■白露 草葉の上で露が白く光る、白さを強調した言葉。 ■風の吹きしく 「しく」は「頻く」と書き、「しきりに~する」。 ■秋の野は 係助詞「は」は、他の季節では見られない、秋の野だけの特長であることを強調する。 ■つらぬきとめぬ 「ぬ」は打消しの助動詞「ず」の連体形。「つないでいない」。 ■玉ぞ散りける 「玉」は真珠。紐でつらねて飾りとした。この歌では秋の野に風がしきりに吹いて白露が乱れ飛んでいる様子を、紐でつらねていないためにバラバラと散ってしまった真珠の玉に見立てる。

出典

後撰集(巻6・秋中・308)。詞書に「延喜の御時(おほんとき)、歌召しければ 文屋朝康」。ただしこの詞書は間違いで、実際は「寛平の御時の后の宮の歌合せ」と考えられています。

決まり字

しら

解説

美しい比喩が光る歌です。「つらゆきとめぬ玉」…普通は、真珠の玉に糸を通して、数珠状にしてあるのです。その糸をすーっと引き抜いたら、どうなるでしょうか?

バラバラーッと真珠の玉が乱れ飛びますよね。そんなふうに、真珠の玉が散ったように白露に野分(台風)が吹きつけて、ハラハラハーッと秋の野に乱れ散っているのです。

文屋朝康。生没年未詳。9世紀末から10世紀はじめの人。宇多天皇から醍醐天皇の時代に活躍した。六歌仙・中古三十六歌仙の一人文屋康秀の息子です。駿河掾、従六位下・大舎人大允と官位は低かったものの寛平大時后宮歌合(かんぴょうのおおんとききさいのみやのうたあわせ)、是貞親王歌合に参加しているので歌人としては名があったのかもしれません。勅撰集には『古今集』に1首、『後選集』に2首を採られます。

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