よくわかる和歌の技法(二)「縁語」「見立て」

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こんにちは。左大臣光永です。

こないだ池袋歩いてたら、小さな巫女さんが、向こうに立ってるんですよ。背丈が、大人の腰のあたりくらいの、小さな巫女さんがいて。ええ?なんでこんな町中に…しかも小さい。そう思って近づいたら、

工事現場で使う赤いカラーコーンの上のほうに白い紙を貼って、案内板にしてあったので、その赤と白の色彩が、巫女さんに見えたのでした。私は視力がよくないので、遠くから見ると、違うモノに見えたりするんですね。それにしても巫女さんとは。なかなかトクな見間違いでした。

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さて、前回から三回にわたって「よくわかる 和歌の技法」をお届けします。枕詞や序詞、見立てや縁語、本歌取りといった和歌の技法について、有名な歌を例にしてお話ししていきます。

和歌の技法について知識を整理しておくと、日本の古典の中には必ずといっていいほど和歌が出てきますので、古典一般を読む上で必ず役に立つはずです。

本日は「縁語」「見立て」です。

↓↓↓音声が再生されます↓↓

http://roudoku-data.sakura.ne.jp/mailvoice/Lect102.mp3

前回「『掛詞』『枕詞』『序詞』」
http://ogura100.roudokus.com/Lect101.html

縁語

縁語は、一首の中に、あるキーワードを中心に連想した二つ以上の言葉を詠み込んで、歌に統一感を持たせる技法です。

袖ひちてむすびし水のこほれるを
春立つけふの風やとくらむ

『古今和歌集』春歌上 巻一・二 紀貫之

暑い夏の日に袖を濡らしてすくいあげた水が、冬の間凍っていたのを、立春の今日の風が、とかしているだろうか。

一首の中に「夏」と「冬」と「春」を詠み込んでいます。

ここで「袖」というキーワードを中心に、「むすぶ」「たつ」「とく」がそれぞれ縁語です。まず、「結ぶ」は手で水をすくい上げること。「春立つ」は立春なること。「とく」は春風が氷を解かすこと。

であると同時に、

「袖」というキーワードからの連想で、「結ぶ」は「帯を結ぶ」の「結ぶ」でもあり、「たつ」は「布を裁断する」の「裁つ」でもあり、「とく」は「帯を解く」の掛詞にもなっています。

…このように、縁語はよく掛詞とともに使われます。

青柳の糸よりかくる春しもぞ
みだれて花のほころびにける

『古今和歌集』巻第一 春歌上 紀貫之

青柳が糸をよりかけたように整然と垂れ下がっている。そういう春であるのに、花は乱れ咲いているなあ。整然とした青柳の糸のような流れと、乱れ咲いている花の対比を活かした歌です。

ここで、「糸」というキーワードを中心に、「よりかくる」「乱れる」「ほころぶ」という言葉が縁語です。

「花がほころぶ」というのは花が咲くことですが、「糸」という言葉からは「糸がほころぶ」というイメージも伴うわけです。このように、一つの歌の中に、あるキーワードを中心に連想した二つ以上の言葉を詠み込んだものを縁語といいます。

鈴鹿山うき世をよそにふりすてて
いかになり行く我身なるらむ

『山家集』西行

ここで、「鈴鹿山」の「鈴」をキーとして、「ふり」「なる」が縁語です。歌の意味としては、鈴鹿山で俗世間のしがらみを捨てて出家隠遁して、これからどうなっていくわが身であろうという意味なんですが、

それに「鈴鹿山」の「鈴」からの縁語で「ふり」「なる」が重なることによって、なにか歌の背後でチリンチリンと鈴の音が響いているような効果が歌に加わります。

梓弓春立ちしより年月の射るがごとくも思ほゆるかな

『古今和歌集』巻第二 春歌下 凡河内躬恒

「春立ちしより」…立春以降、年付きが弓を射るように速く思われるなあ。

まず「梓弓」という枕詞が弓を張る、ということから次の「春」を導き、それに「弓」という言葉からの連想で、年月が過ぎていく速さを「射る」と詠んでいます。この歌では「あずさ弓」がキーとなる言葉で、「射る」が縁語です。

このように縁語は多くの歌に使われる技法ですが、なかなか難しく、理論を言うより実際に歌に多くふれているうちに「ああ、縁語とはこういうものか」とわかってくると思います。

「見立て」は、あるものを別のものになぞらえることです。たとえば「紅葉」を「錦」に。「花」を「雲」に見立てる、という具合です。

このたびは幣もとりあへず手向山
紅葉の錦神の間に間に

『古今和歌集』巻9・羈旅420 菅原道真

今回の旅は急なことでしたので、神前にお供えする幣も、じゅうぶんに用意できませんでした。せめて手向山の道祖神よ、このすばらしい錦のように紅葉を、御心のままにお受けください。この歌は宇多上皇の吉野御幸に家来として付き添った菅原道真が詠んだ歌です。

この歌では「紅葉」を「錦」に見立てているわけです。

基本的に「物」を「物」に見立てるであって、人の心のような抽象的なものをたとえる時は「見立て」とはいいません。

「見立て」はこのように、ある物を別の物にたとえることで、和歌だけでなく、いろいろな分野に用いられます。

たとえば庭園では、庭の一角にそびえる築山を富士山に見立て、満々とたたえる水を、海に見立てます

枯山水では、砂の模様を水の流れに見立て、そこに置かれている岩を島や動物に見立てるといった具合です。

千利休は見立ての技法によって、本来、茶の湯の道具でなかったものを茶の湯の道具として採り入れました。たとえば、

水筒として使うヒョウタンを、花さしに使ったり。船を乗り入れる「にじり口」を茶室の「にじり口」に転用したり、といった具合です。

落語では、扇子でもって、いろいろなものに見立てますね。ある時は煙管になったり、ある時は、蕎麦をすする箸になったり。あれも見立ての一種です。

花の雲鐘は上野か浅草か

松尾芭蕉

雲のようにワアッと広がった桜花。その向こうでゴオーンと鐘が鳴った。あれは上野の寛永寺だろうか。浅草の浅草寺だろうか。

深川に住んでいる芭蕉が、春、鐘の音を聞いた時の句です。和歌で多く「花」が「雲」に見立てられるのを踏まえて、その表現を採り入れた句です。

白露に風のふきしく秋の野は
つらぬきとめぬ玉ぞ散りける

文屋朝康

白露に風のふきしく…風がしきりに吹く秋の野は、「つらぬきとめぬ玉ぞ散りける」…貫き留めていない玉が散ったようだ。どういうことか?

真珠の玉をですね、穴あけて紐通して、こう数珠状につないでいるわけです。これが「つらぬきとめている」状態です。

それが「つらぬきとめぬ」ですから、貫き留めないで、ようは、紐をスッと引き抜いてしまって、そうすると真珠の玉がバラバラバラッと飛び散っちゃう。

そういうふうに風の吹きしく秋の野に散らばる白露が、バラバラバラッと貫き留めていない玉が散ったように見える、という歌です。白露を玉に見立てています。ようは比喩。たとえです。白露を、玉に見立てています。

本日は「縁語」「見立て」についてお話ししました。
明日は「本歌取り」と「体現止め」です。お楽しみに。

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