有馬山猪名の笹原風吹けば いでそよ人を忘れやはする 大弐三位

ありまやま いなのささはら かぜふけば いでそよひとを わすれやはする (だいにのさんみ)

有馬山から猪名の笹原に風が吹き渡ると、笹はそよそよとそよぎます。さあ、まさにそれですよ。そんなふうに、いつも貴方のことを心にかけている私です。どうして忘れることなどありましょう。

有馬山・猪名
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語句

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■有馬山 摂津(兵庫県)有馬郡(現神戸市兵庫区有馬町)にある山。温泉地としても知られる。 ■猪名 摂津を流れる猪名川に沿った平地で、昔は笹原であった。有馬山の東北。歌枕。有馬山と一緒に詠まれることが多い。 ■いでそよ 「いで」は勧誘、決意などの副詞。「そよ」は「そうですよ」と笹がそよそよ鳴っている擬音の掛詞。 ■人 相手の男。 ■忘れやはする 「や」「は」は反語の係助詞。動詞「す」の連体形「する」で受ける。

後拾遺集(巻12・恋2・709)詞書「かれがれなる男の、おぼつかなく、などいひたるによめる 大弐三位」。通ってくるのがまれになった男が、逆に「貴女の心変わりが心配です」などと言ってきたのに対して詠んだ歌。

決まり字

ありま

「いでそよ」がポイントです。「いで」は決意などをあらわす言葉「さあ」という掛け声。「そよ」は「そよそよ」という擬音と、「そうですよ」という意味が掛けられています。

詞書によると、疎遠になっていた男が「貴女の心変わりが心配です」と逆に言ってきたのに作者が返した歌です。

心変わりなんてしませんよ。いつも貴方を気にかけていますよと言っているのです。

解説

大弐三位(999-?)。藤原宣孝と紫式部との間に生まれた娘です。本名賢子(かたいこ・けんし)。大宰大弐高階成章(だざいのだいに たかはしのなりあきら)と結婚し、後一条天皇の乳母となり三位の位を賜りました。このため夫の官位名とあわせて大弐三位と呼ばれました。

『後拾遺集』を中心に多く歌が採られています。また『狭衣物語』の作者とも言われます。母紫式部が『源氏物語』を書いた40年後に『狭衣物語』を書いたと言われますが、これは間違いだそうです。

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