心あてに折らばや折らむ初霜の 置きまどはせる白菊の花 凡河内躬恒

こころあてに おらばやおらん はつしもの おきまどわせる しらぎくのはな(おうちこうちのみつね)

意味

あてずっぽうに折るなら折ってみようか。初霜が真っ白な中にまぎれて見えづらくなっている白菊の花を。

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語句

■心あてに あて推量に。「折らむ」に係る。 ■折らばや折らむ 動詞「折る」に接続助詞「ば」がついて「もしも折るというなら」。「や」は疑問「む」は意志。もしも折るというなら折ってみようか。 ■初霜 その年の晩秋にはじめて降る霜。 ■おきまどはす 置いてわからなくする。

出典

古今集(巻5・秋下・277)。詞書に「白菊の花をよめる 凡河内躬恒」。『古今六帖』にも。

決まり字

こころあ

解説

白のイメージが強烈な歌です。霜がビッシリで、その中に咲いている白菊がつまり保護色になって、よく見えないのです。

正岡子規が『歌よみに与ふる書』の中で嘘臭くてつまらない歌だとけなしたことで知られます。

凡河内躬恒。生没年不詳。平安時代初期に活躍した歌人、官僚。三十六歌仙の一人。甲斐権少目(かいのごんのしょうさかん)、丹波権少目(たんばのごんのしょうさかん)、丹波権大目(たんばのごんのだいさかん)、和泉権掾(いずみのごんのじょう)、淡路権掾(あわじのごんのじょう)などの地方官を歴任します。

『古今和歌集』の編者の一人で、紀貫之と並び賞されます。家集に『躬恒集』。『大和物語』や『大鏡』に凡河内躬恒にまつわる逸話があります。

弓張月のゆえんを詠む

ある時醍醐天皇が凡河内躬恒を召して、お尋ねになりました。

「躬恒よ、月を弓張というのは、どういうわけか。その由を歌に詠め」

そこで凡河内躬恒が詠んだ歌

照る月を弓張としいふことは
山べをさして入ればなりけり

山に入る、と弓を射る、をしゃれたのでした。

「ううむ。さすがは躬恒である。褒美をとらせる」

醍醐天皇は凡河内躬恒に衣を与え、凡河内躬恒はこれを肩にかけて退出して歌うことに、

白雲のこのかたにしもおりゐるは
天つ風こそ吹きてきぬらし

白雲がこの方面におりてきて、白い衣が私の肩におりてきたのは、天から風が吹いてきたようだ。

方と肩を掛けたのでした。

「ううむ。返す返すも当意即妙なことよ」

醍醐天皇はますます関心なさった、ということです(『大鏡』)。

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